「食」と「農」の政策評価 問われる安全と自給

一週間ほど前になるけれど、『「食」と「農」の政策評価 問われる安全と自給』を読んだ。読んだと言っても流し読みで、関心のあるところを重点的に読んだくらい。

「食」と「農」の政策評価―問われる安全と自給

「食」と「農」の政策評価―問われる安全と自給

農水省への評価

これは2002年に出された本で、その初版を買っていたんだけど、この中ではすでに(と言うより、当時僕が関心を持っていなかったのだろう)、世界的な食糧不足、水不足が引き起こされることを指摘している。
そして、そんな世界的趨勢を見たとき、農水省の政策は基本的に正しい方向へ向いていると言う。

すなわち

そうした時代の趨勢を見通した時、農水省は国民が必要とする食料を、極力自国産で供給する体制を整えるべきだと考え二一世紀の基本戦略としている。

ただ、これに対するコメントが本心なんだか皮肉なんだかよく分からないことになっている。
たぶん、皮肉なんだろうと思うけど。

まことに立派な志ある農政である。

農政の歴史 保護政策から外圧による競争政策へ

戦後の農業振興のベースは、戦前の小作・小自作体制から脱却した自作化にあり、本書では「農地解放」と呼んでいる。

また、農業基本法の制定により、高度経済成長期における(労働力の流出、貿易自由化等が背景)農業の構造改革、農業の近代化を通じて農業者の所得向上を図るものだった。

しかし、1980年代に入るとジャパンアズナンバー1と形容されるほどの貿易黒字をたたき出し、アメリカなどから外圧がかかり始めた。
僕の理解からざっくり言うとこうなる。
すなわち、日本は工業製品による黒字があるのだから、他の産業について貿易を自由化し輸入を拡大せよ、と。

ウルグアイ・ラウンド後の農政

ウルグアイ・ラウンド合意後の農政は、農産物の貿易自由化という嵐の中で、日本の農業が国際競争力を強化して生き残り、自給率を向上し、国民に食料を安定供給しようという内容だ。

要するに、日本の農業を市場競争に晒し、強い農業者を生き残らせ、弱い、小さい農業者は淘汰されても仕方ないそういう方向になった。
なぜかと言うと、

国際競争力を強化するためには、経営規模を拡大し、近代的な営農方式を普及させることが必要だというのである。

この経営規模の拡大、近代的な営農方式の普及は、要するに平野部においてのみ可能な取り組みであり、中山間地域においては農地集約は一定以上には無理なんである。

中山間地域への対策

中山間地域への対策として、ここでは直払い*1を例示している。
この本を読むまで、知らなかったんだけど、こうした中山間地域への対策として農水省が目標値を上げているらしい。

中山間地域の農業粗生産額が、全国のそれに占める割合(36%)の現状維持」

だそうだ。

僕の記憶もそうだけど、この本の中でもこの目標であれば概ね達成されている。


この後、本書では食育や耕作放棄地についても触れているが、そもそも2002年発行の本では目新しいものはなかった。

*1:中山間地域直接支払制度