全国空き家活用シンポジウムin江津に参加(とりあえず1日目)

昨日、今日と島根県江津市で開催された『全国空き家活用シンポジウムin江津』に参加してきた。
2日間にわたって、空き家を活用した事例報告や、具体的な空き家分布調査の報告、空き家を使った定住促進の取り組み状況などが報告された。
とくに面白かったのは、2日目のパネルディスカッション。
パネルディスカッションと言っても、実際には会場との質疑応答がメインだったんだけど、多分このほうが断然面白いと思う。

一般的なパネルディスカッションだと登壇者同士がしゃべり合うだけで終わることが多く、イマイチ実際の問題や具体的な問いかけに答える場面が少ないので、今回の最初から会場へ投げかけたやり方は良かった。

1日目の感想など

市長あいさつ

市長によると、今回のシンポには東北からも参加されているらしく、空き家活用に対する関心の高さをうかがわせた。
過疎法についても言及しており、江津市街地は過疎地ではないらしい。
まぁ、製紙工場があるので致し方なし、といった感もあるけど、どうなんだろう。
隣の大田や浜田は全域過疎地だから、駅を過疎債で直してる!とやっかみを交えて笑いを取っていた。
この辺はさすが、市長といった感じで喋りがうまいなと思った。

記念講演 「民家を生かして地域再生を」 安藤邦廣氏(筑波大学大学院教授)

安藤さんは以前、江津辺りの出身の学生を持ったことがあるそうで、以前石州瓦の調査で益田〜江津を訪れたことがあったそうな。
で、空き家というか安藤さん曰く「民家」の活用については……。

  • ちょっと感覚が違うなー

うーん。正直、建築畑の話だな、という印象。

ちょっと感覚が違うな、と感じたな。

なんかいろいろとこれまでの取り組みを話されているんだけど、それ、一般的な中山間地域でできるの?という疑問が付きまとってた。
新潟の事例なんかも、「年間10億かけて祭やりました^^」と紹介されたんだけどねぇ。

  • これは良いな!! その1

一方で、良いなと思った言葉は、中山間地域と都市部を結びつけるのは利害を超えた分野である、ということ。
安藤さんはこの部分をイベント、アートに置き換えておられたけど、そうするとちょっとピンとこないので、利害を超えたモノと理解している。

  • これは良いな!! その2

空き家の再生のためには、その地域に住む人の知識・知恵、技術が必要になるので、できるだけ再生には手がかかる方が良い。そうすると、自然と地域の人との関わりが生まれ、人材の掘り起こしにもつながっていく、ということ。
たしかに、安直に簡単だから、手間がかからないからと何でも自分たちでやろうとするんじゃなく、ちょっと大変だけど、地域の人との関わりを持とうという姿勢は大事だと思ってる。

空き家利活用の事例報告
  • 民宿・温泉と連携した“田舎料理の店” ゆるりの里 前田祐子氏


ゆるりの里には行ったことがないんだけど、プレゼンを聞いて何だか行ってみたくなった。
ご飯はゆるりの里、風呂は近くの三瓶温泉飯南町の温泉、宿泊はゆるりの里の近くのおばあちゃんち、ってなんかひかれるわぁー。

でもね、これは実は隠岐でも同じような動きがあるんだ。

隠岐の島町の北側の地域、中村という地区なんだけど、ここでは古民家“幸”(さいわい)が宿泊場所で、コミュニティレストラン的な飲食店「さざえ村」が食事を提供する。
ただ、ゆるりのケースと違い、隠岐の場合は古民家の方がさざえ村に連携を持ちかけた、という点が違うかな。

  • 民家だからこそできる福祉・介護 NPO天の川 飯島龍一郎氏


福祉の専門家(ソーシャルワーカー?)である飯島さんの報告。
重度の認知症の方や、一般の施設だと暴れることが多いお年寄りが昔ながらの古民家を使った施設(と言うより、彼らが育った「家」そのもの)で暮らすと、落ち着ける場所を自分で探してゆっくりと過ごせる、という報告。
本来、高齢者福祉ってそういうものなんじゃないのか?という問いかけ。
一般的な施設だとどうしても、お年寄りを制御・コントロールしようとしてしまう。それは施設の運営上、仕方ないことだとは思う。それが良いか悪いかは別だけど、一事業者としては、スムーズに仕事が進むほうが良いんだからそうなるのは必然。
そこに疑問を感じ自分なりの施設運営を目指した飯島さんの行動力はすごい。
面白かったのは、大人の職員がご飯を食べさせようとしても「イヤイヤ」と食べようとしないお年寄りが、職員が連れてきている子ども(2歳児くらいか?)が口元に運ぶと素直に食べるんだとか。
曰く、「もっとも時給の高い職員」だそうな。でも、あの写真はいいなぁー。本当に、お年寄りも楽しそうに暮らしてるんだよね。
でも、そんな人たちも一般施設に入るととたんに固まってしまうんだそうだ。
環境というか、昔自分たちが暮らしたであろう家と同じような空間にいることが大事なんだろう。
それともう一つ、やっぱりお年寄りにとって「自分がやれること」があるということかな。
興味深い報告でした。

  • 「民家トラスト」設立の呼びかけ


空き家というより、どちらかと言うと、いわゆる庄屋や豪農・豪商の所有していた家屋をこのまま朽ち果てさせるのは忍びないということで、「危機的重要民家」をトラスト登録したいんだ、ということだった。
登録は良いんだけど、誰が調査して、誰が所有者の了解を得て、誰が登録申請するのか、ちょっとわからなかった。
でも、面白そうだなとは思った。

資料の中に例として出ていたものすごく大きな家屋の所有者さんが会場に居て発言されたんだけど、ご本人はもう地元に戻る気力がないので使ってもらいたい、と話された。
ひとつ気になったのは、おそらくは地元におられるであろうご親戚が、それをどう感じるか。

あと、管理運営の類型として4類型をあげていた。

  1. 文化系
  2. 商業系
  3. 宿泊系
  4. 福祉系
  • 総括ディスカッション


長いんで、大幅にカットして、気になったところだけ紹介。
討論者の山城さんが言われていたことが一つ。

田舎にこそブロードバンド環境が必要

これは僕もまったく同感。
場合によっては、購買力が流出する可能性もあるけど、それでもブロードバンド環境さえ整っていれば中山間地域に住んでも良い、と考える層は一定数いるだろうと思う。
それと、農地・空き家の活用を進めるには何らかの公的セクターの介在が必要だということ。
これは田舎では特に重要。

次。
作野先生。
飯島さんへの質問を3つ。

  1. 空き家の取得方法について
  2. 維持管理方法(金銭面含めて)
  3. 認知症等のお年寄りが入ることに対する地域の反応

これに対して飯島さんは

  1. 20軒くらいは断られた。最初は地元の人もよく分からず、良いよと言ってくれたが認知症の人が入ると分かると断られた。結局、最初の1軒目は在宅介護で大変な苦労をされた方が居て、その方が飯島さんの理念を理解し、民家を提供してくれた。その後は、利用者の家族や見学者・視察者の口コミ、紹介で物件が見つかった。
  1. 当初、家賃なども相場が分からないので、一般的な家賃ということで5万円/月でお願いしていた。今は10万円/月。修繕費等はこちらで基本的には負担し、巨額になれば相談。今のところそういうケースは出ていない。
  1. 地域の反応は地域によって様々。呼びかければ積極的に施設のイベントに参加してくれたり、挨拶をしてくれるところもあれば、まったく無関心で挨拶もしないようなところもある。一面には、借りている「家」の性格も影響を与えている?

佐藤さんは、長年全国の地域・集落を歩いた方で、地域の文化や暮らしの崩壊を感じているという。一方で、民家の持つ魅力・力を信じている、とも。
地域の再建の核は民家にある、と断言。

あとは会場とのやり取りなど。

ここで、会場に驚きの人がいた!!
って言ってもこれは多分、個人的に驚き、また嬉しかっただけなんだけど。
あの会場の中で僕以上に彼のファンはいないんじゃないの?と思うような人。
それは、NHK松江放送局アナウンサーの堀江さん。
堀江 清市

堀江さん曰く「空き家でもうけるのではない。安価で入ってもらうということは安価で家屋を管理していただいている」そう考えることが大事だと。

これに対して佐藤さんからはフランスの事例として、無料で貸すことを示された。
貸すと言うより、文化財として考えているから、民家を文化財としてみることが大事だそうだ。

最後に作野先生が、完璧を目指さない良い意味での気楽さが中山間地域、農村では必要だと指摘。それに、都会ではマスの論理だが、農村ではそうじゃない。一人の農業者が集落の農業を支えているケースもよくあることだと示され、終了。

この後交流会もあったんだけど、参加せずに帰宅。

プログラム

 ○記念講演 「民家を生かして地域再生を」
  筑波大学大学院教授 安藤邦廣氏

 ○空き家利活用の事例報告
  1.民宿・温泉と連携した“田舎料理の店”
    (島根県美郷町 ゆるりの里 前田祐子氏) 
  2.民家だからこそできる福祉・介護
    (群馬県高崎市 NPO天の川 飯島龍一郎氏)

  3.「民家トラスト」設立の呼びかけ
    (NPO日本民家再生リサイクル協会 大沢匠氏)

 ○総括ディスカッション
  コーディネイター:安藤邦廣氏
  討論者
   ・作野弘和氏(島根大学教育学部准教授)

   ・山城滋氏(中国新聞社論説主幹)

   ・佐藤彰啓氏(ふるさと情報館代表)

  • 2日目 テーマ:定住促進のための空き家流動化の施策提案

 ○基調報告 「空き家の実態と地域課題〜江津市全戸調査の結果から〜」
  島根大学教育学部准教授 作野広和氏

 ○江津市の施策紹介
  「多様な主体の連携による空き家活用」
  江津市農林商工課総括主任 中川哉氏

 ○パネルディスカッション
  「空き家利活用促進にむけた問題解決と提案」
  コーディネイター:作野広和氏
  パネリスト
   ・NPOによる空き家活用と定住化への誘い
    河部安男氏(NPO結まーるプラス理事)

   ・空き家仲介事業を踏まえた課題と提案
    佐藤彰啓氏(ふるさと情報館代表)

   ・空き家流動化の促進と法制度の提案
    釜瀬隆司氏(江津市経済建設部部長)