中山間地域研究センター講演会 「中山間地域の未来と再生」

正直、忙しい。忙しいけど、小田切先生が講演するってんで、行って来た。

行って良かったー。

田切先生というのは、明治大学農学部の教授で、最近中山間地域研究センターのアドバイザーに就任された方。
2年ほど前に一度だけ*1、音声データでは講演を聴いてたんだけど、今回初めて直接話を聞いたわけです。

プログラム

 講師 島根県中山間地域研究センター研究アドバイザー 明治大学農学部教授 小田切徳美 氏

  • 研究報告

 1.土地所有不在化の実態と土地資源棚卸しについて
 2.集落営農における地域貢献度調査について

残念ながら時間の都合で、意見交換会までは聞けなかったんだけど、小田切先生とは名刺交換までできて、ちょっとテンションあがったりもした。

中山間地域の未来と再生

時間がないので、簡単にかいつまんでおさらいをしておきたい。

農山村・中山間地域を巡る2つの視点

1.格差是正の対象:これらの地域は格差是正を図らなければならない地域

2.内発的発展:これらの地域は内発的な力で発展できる底力を持っている地域


こうした2つの視点の間を右往左往してきたのがこれまでの農政である、ということ。
そして、2000年以降の内発的発展という視点を利用して、農山村、中山間地域がおざなりにされてきた。

田切先生は、ここで「どちらか」ではなく、「どちらも」追うことが重要であると指摘。

つまり、

困っているから支援するのではなく、その個々の個性が日本の「宝」だから支援する*2

これは、要するに今までの地方からの「困っているから何とかしてくれ」というロジックが通用しなくなってくるよ、ということ。
なぜか?今後10年で見たとき、地方よりも都市部で高齢化、地域としての機能が低下することが予想されるから。
そんな時に「地方は困っているから助けて!」と言ったところで、都市に「うちはもっと困ってるんだ」と言われておしまい。

そうではないんだよ、と。

支援する指標を「困っている」にするからおかしくなるんだと言われてる。

つまり、日本において「宝」かどうかを支援対象とするかどうかの指標とすることを提案されている。

あと、さらっと日本の国際戦略物資(資源)として、

をあげている。

中山間地域を含む農山村地域の現状

キーワード的に。

  • 人・土地・ムラ、3つの空洞化
  • これらの基層としての「誇り」の空洞化
  • 空洞化の「里くだり」現象 → 自治能力崩壊のドミノ現象
  • 兼業農家における農外所得の減少
中山間再生の具体的課題

こっちもキーワード的に。

  • 新しいコミュニティの構築:手作り自治区

これは、集落と○○自治区とが相互に補完するものであって、○○自治区が集落に取って代わるものではない。

島根県は「地域貢献型集落営農」を推進している

この辺は、どれを選択するか、ではなく、どれとどれを掛け合わせるか、みたいな視点でないと厳しいように思う。
例えば、隠岐では「交流産業型」と「地域資源保全型」のエコツーリズムだし、将来的には地域の地場産品を食べてもらえる「6次産業」も目指している。

  • 小さな経済

アンケートから分かるのは、高齢者が現状の収入にあとどれくらい必要かということ。これはおおむね50〜120万(年間)。
月に直すと、5万から10万。と言うと、不可能ではないように思われる。

新しい行政の仕組み

このテーマでは、和歌山県田辺市が取り上げられていました。
ここでは首長以下、職員までが「ハート」を重要視していることが大きな効果を生んでいるそうです。

新たな農山村・中山間地域政策の展開

少しずつ国の施策も変わってきている、というのが小田切先生の見方。

人への投資に移り変わったのは、弥栄の皆田さんの動きがあったから、と断言できると仰っていた。
すごい・・・。

  • 中間支援組織への支援(EUと似ている)
  • 圏域で考えることが必要

中山間地域単独ではなく、近隣の地方都市との連携強化

土地所有不在化の実態と土地資源棚卸しについて

中山間センターの安部さんによる報告。
とりあえず、弥栄では土地資源に対するこだわりは想定されるほど強くはなく、やや流動化の傾向が確認された。

ただし、これはレアケースかもしれない。*3

集落営農における地域貢献度調査について

同じくセンターの竹山さんの報告。
地域貢献型集落営農を評価するシステムを構築するための調査報告。
指標を次の4つの分野に分けていた。

  • 農地維持機能
  • 経済維持機能
  • 生活維持機能
  • 人材維持機能


で、結果から僕が感じたのは、やはり生活維持機能は弱い傾向にあるなーということ。
それと、意外と人材維持機能が発揮されているようである、ということ。

地域別にみると平坦部の集落営農よりも中山間地域集落営農の法が評価が高くなったようです。
これは、個別ではなかなか難しくなったから集落営農にしようか、という流れを想像すると、まあ当然と言えば当然かなと。

簡単ですが、こんな感じでした。

個人的には、農政が二つの視点を右往左往していた、という指摘と、今後の地域支援の指標として「宝」というものを提案された点が刺激をもらった。

ただ、「宝」というだけではまだ少し弱いような気はしている・・・実は。
だからと言って対案が出せないんだけど、でも良いヒントをもらったと思う。
少なくとも「困っている度」は、もう指標として用いるべきでない、ということははっきりした。

*1:あれからもうそんなに経つのか、という感覚

*2:配布レジュメより

*3:他の市町村では違う傾向かも…